終わらない〈密室の人権侵害〉
差別と暴力が支配するこの施設は、私たちの社会の一部である。「不法な外国人」に対する眼差しにも迫る、果敢な試み。
「暴力性」を放置する社会を続けるのか
日本には、正規の滞在が認められない外国人を収容する入管収容施設がある。収容の可否に司法は関与せず、無期限収容も追放も可能な場所だ。差別と暴力が支配するこの施設は、私たちの社会の一部である。「不法な外国人」に対する眼差しにも迫る、果敢な試み。
【本文より一部抜粋】
二〇二一年の通常国会に上程された入管法改定案は、多くの声が結集し、廃案となった。
入管収容に関する法制は、一九五一年の出入国管理令制定時から、七〇年以上もの間、一度も「改正」されていない。
二〇二一年の改定法案は、「収容に代わる監理措置」を導入し、かつ、仮放免が許可される場合をより制限的にする内容を含む、大幅な変化をもたらそうとするものであったが、国連の諸機関から勧告を受けていたような司法審査の導入・収容に上限を設けるなどの内容をまったく反映していなかった。むしろ、「収容に代わる監理措置」を受けるために必ずつけなくてはならない監理人に、従来の仮放免における保証人よりはるかに厳しい報告義務を負わせ、これに違反した場合には過料の制裁を課すという内容が含まれていた。つまり、入管による仮放免者の動静監視を民間の監理人に肩代わりさせる、「仮放免の劣化版」と評されるものであった。
しかし、法務省は廃案となった改定法案を、ほぼそのままの形で再提出することを目論んでいる。二〇二一年一二月二一日に、出入国在留管理庁がウェブサイトで「現行入管法上の問題点」を公表し、「送還忌避者の現状」として「送還忌避者」には難民申請者や、有罪判決を受けた者が多いということを強調したのは、その目論見の顕著な現れである。また、ウクライナ危機への対応に乗じて、政府は二〇二二年秋の臨時国会に入管法改定案を再提出する意向を示している。
本書は、もともと、来るべき入管法改定案再提出に備え、二〇二一年の廃案に至る軌跡を記録しておかなければならないという強い思いから、編者らが出版を企画し、明石書店にお引き受けいただいた。その後の議論の結果、二〇二一年の記録だけにとどまらず、そもそも七〇年以上前に作られ現在まで基本的な姿が温存されている入管収容法制はどのようにして作られたのかというところから紐解き、入管収容が現在に至るまでどのような経過を辿ってきたのかを多面的に検証していくこととなった。ご多忙な中、執筆をご快諾いただいた皆さんには感謝しかない。おかげで、日本の入管収容問題では、これまで類をみない、後世に残る第一級の資料が完成したと自負している。
――児玉晃一「あとがきにかえて」より
【書評情報・関連記事】
○終わらない〈密室の人権侵害〉に終止符を打つ――『入管問題とは何か』より(じんぶん堂)
日本には、正規の滞在が認められない外国人を収容する入管収容施設がある。収容の可否に司法は関与せず、無期限収容も追放も可能な場所だ。差別と暴力が支配するこの施設は、私たちの社会の一部である。「不法な外国人」に対する眼差しにも迫る、果敢な試み。
【本文より一部抜粋】
二〇二一年の通常国会に上程された入管法改定案は、多くの声が結集し、廃案となった。
入管収容に関する法制は、一九五一年の出入国管理令制定時から、七〇年以上もの間、一度も「改正」されていない。
二〇二一年の改定法案は、「収容に代わる監理措置」を導入し、かつ、仮放免が許可される場合をより制限的にする内容を含む、大幅な変化をもたらそうとするものであったが、国連の諸機関から勧告を受けていたような司法審査の導入・収容に上限を設けるなどの内容をまったく反映していなかった。むしろ、「収容に代わる監理措置」を受けるために必ずつけなくてはならない監理人に、従来の仮放免における保証人よりはるかに厳しい報告義務を負わせ、これに違反した場合には過料の制裁を課すという内容が含まれていた。つまり、入管による仮放免者の動静監視を民間の監理人に肩代わりさせる、「仮放免の劣化版」と評されるものであった。
しかし、法務省は廃案となった改定法案を、ほぼそのままの形で再提出することを目論んでいる。二〇二一年一二月二一日に、出入国在留管理庁がウェブサイトで「現行入管法上の問題点」を公表し、「送還忌避者の現状」として「送還忌避者」には難民申請者や、有罪判決を受けた者が多いということを強調したのは、その目論見の顕著な現れである。また、ウクライナ危機への対応に乗じて、政府は二〇二二年秋の臨時国会に入管法改定案を再提出する意向を示している。
本書は、もともと、来るべき入管法改定案再提出に備え、二〇二一年の廃案に至る軌跡を記録しておかなければならないという強い思いから、編者らが出版を企画し、明石書店にお引き受けいただいた。その後の議論の結果、二〇二一年の記録だけにとどまらず、そもそも七〇年以上前に作られ現在まで基本的な姿が温存されている入管収容法制はどのようにして作られたのかというところから紐解き、入管収容が現在に至るまでどのような経過を辿ってきたのかを多面的に検証していくこととなった。ご多忙な中、執筆をご快諾いただいた皆さんには感謝しかない。おかげで、日本の入管収容問題では、これまで類をみない、後世に残る第一級の資料が完成したと自負している。
――児玉晃一「あとがきにかえて」より
【書評情報・関連記事】
○終わらない〈密室の人権侵害〉に終止符を打つ――『入管問題とは何か』より(じんぶん堂)
はじめに[鈴木江理子]
第1章 入管収容施設とは何か――「追放」のための暴力装置[鈴木江理子]
1 追いつめられる被収容者
2 追いつめられる仮放免者
3 追いつめられる外国人
Column 1 ウィシュマさん国家賠償請求事件[空野佳弘]
第2章 いつ、誰によって入管はできたのか――体制の成立をめぐって[朴沙羅]
1 はじめに
2 敗戦と非正規な人と物資の移動――引揚げと「密航」・「密貿易」
3 外国人登録令の公布とエスニック・マイノリティの外国人化
4 冷戦と民族差別――入管体制の成立
5 「入管体制」への疑問
6 おわりに
Column 2 大村入国者収容所における朝鮮人の収容[挽地康彦]
第3章 入管で何が起きてきたのか――密室を暴く市民活動[高橋徹]
1 はじめに
2 入管収容問題と出会う
3 入管問題調査会の発足
4 被収容者の母国をたずねる
5 信じがたい蛮行の数々
6 強制収容される子どもたち
7 解決への糸口
8 おわりに
Column 3 入管収容で奪われた「もの」[井上晴子]
第4章 支援者としていかに向き合ってきたか――始まりは偶然から[周香織]
1 難民問題との出会い
2 クルド人難民家族とイラン人難民との出会い
3 クルド人難民Mさんとその家族
4 深刻化する入管の長期収容問題と「入管法改正案」
Column 4 弱くしなやかなつながりのなかで[安藤真起子]
第5章 誰がどのように苦しんでいるのか――人間像をめぐって[木村友祐]
1 晴佳さんとサイさん、その子どもたち
2 トルコ国籍のクルド人チェリクさん
Column 5 被収容者の経験[アフシン]
第6章 どうすれば現状を変えられるのか――司法によるアプローチを中心に[児玉晃一]
1 収容制度について
2 「収容に代わる監理措置」
3 収容施設及び処遇
4 仮放免中の処遇
5 改善へのアプローチ
あとがきにかえて[児玉晃一]
入管収容をめぐる年表
第1章 入管収容施設とは何か――「追放」のための暴力装置[鈴木江理子]
1 追いつめられる被収容者
2 追いつめられる仮放免者
3 追いつめられる外国人
Column 1 ウィシュマさん国家賠償請求事件[空野佳弘]
第2章 いつ、誰によって入管はできたのか――体制の成立をめぐって[朴沙羅]
1 はじめに
2 敗戦と非正規な人と物資の移動――引揚げと「密航」・「密貿易」
3 外国人登録令の公布とエスニック・マイノリティの外国人化
4 冷戦と民族差別――入管体制の成立
5 「入管体制」への疑問
6 おわりに
Column 2 大村入国者収容所における朝鮮人の収容[挽地康彦]
第3章 入管で何が起きてきたのか――密室を暴く市民活動[高橋徹]
1 はじめに
2 入管収容問題と出会う
3 入管問題調査会の発足
4 被収容者の母国をたずねる
5 信じがたい蛮行の数々
6 強制収容される子どもたち
7 解決への糸口
8 おわりに
Column 3 入管収容で奪われた「もの」[井上晴子]
第4章 支援者としていかに向き合ってきたか――始まりは偶然から[周香織]
1 難民問題との出会い
2 クルド人難民家族とイラン人難民との出会い
3 クルド人難民Mさんとその家族
4 深刻化する入管の長期収容問題と「入管法改正案」
Column 4 弱くしなやかなつながりのなかで[安藤真起子]
第5章 誰がどのように苦しんでいるのか――人間像をめぐって[木村友祐]
1 晴佳さんとサイさん、その子どもたち
2 トルコ国籍のクルド人チェリクさん
Column 5 被収容者の経験[アフシン]
第6章 どうすれば現状を変えられるのか――司法によるアプローチを中心に[児玉晃一]
1 収容制度について
2 「収容に代わる監理措置」
3 収容施設及び処遇
4 仮放免中の処遇
5 改善へのアプローチ
あとがきにかえて[児玉晃一]
入管収容をめぐる年表
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