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ホワイト・フラジリティ 私たちはなぜレイシズムに向き合えないのか?
本体2,500円+税
ISBN 9784750352060
判型・ページ数 4-6・256ページ
出版年月日 2021/06/05
フォーマット 価格
単行本 2,500円+税
電子書籍 2,000円+税

ホワイト・フラジリティ 私たちはなぜレイシズムに向き合えないのか? (単行本)

人種差別を指摘された際の〈白人の心の脆さ〉を説き、マジョリティの誰もが人種差別主義を抱える根拠と対処法を明示する。

私は差別などしない――だが、それは真実か?

私は相手の肌の色など気にしない。人格で判断すべきと分かっているから――だがこうした差別の否認は、白人の心の脆さ(ホワイト・フラジリティ)と特権を示しているだけだ。マジョリティの誰もが人種差別主義(レイシズム)を抱える根拠と対処法を明示し、米国で大反響を巻き起こしたベストセラー。


監訳者解説(貴堂嘉之)より一部抜粋

本書は、 米国の社会学者ロビン・ディアンジェロが2018年6月に刊行した著作White Fragility: Why It’s So Hard for White People to Talk About Racismの全訳である。本書で、著者は白人の読者を主たる対象に、白人はなぜ人種問題に向き合えないのかと問い、白人による黒人差別の構造を解明している。

著者のディアンジェロは現在六四歳の白人の女性研究者。白人性研究の専門家としてウェストフィールド州立大学やワシントン大学で多文化教育に尽力し、現在は企業や地域コミュニティ、政治家向けの反レイシズムや多様性をテーマとしたトレーニング講師として活躍している。

2020年5月、ミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイドさんが白人警官により殺害された事件が引き金となって、米国ではブラック・ライブズ・マター (BLM、黒人の命は大切)運動に再び火がついた。黒人だけでなくアジア系、ヒスパニック、そして白人の若者らが加わり、BLM運動は、地域や人種、世代を超えた大規模な反人種差別運動へと発展した。この運動の興隆と同時期に、レイシズムへの処方箋を示す指南役として一躍、時の人となったのが著者のディアンジェロであった。全米で怒りの抗議活動が展開される中、本書は大ベストセラーとなり、著者はメディアで引っ張りだこになった。また、彼女のもとには、多くの企業から講演の依頼が殺到した。マイクロソフトやグーグル、アマゾン、ナイキ、アンダーアーマー、ゴールドマン・サックス、フェイスブック、CVS、アメリカン・エキスプレス、ネットフリックスなど名だたる大企業が、BLM運動への連帯を表明し、人種差別を糾弾する声明を発表した。

ニューヨーク・タイムズの記事(2020年7月15日)からは、ディアンジェロの講演会の様子をうかがい知ることができる。ジョージ・フロイド事件の10日後、民主党指導部の呼びかけで184名の連邦議員を集め、講演会が開かれた。ナンシー・ペロシ下院議長の挨拶のあと、ディアンジェロは次のように聴衆に語りかける。「今、この講演を聴いている白人の(議員の)皆さんは、私があなたがたのことについて話しているのではないと思っていることでしょう。1960年代に(公民権運動の)デモ行進に参加していたから、多様性のある選挙区を地盤としているから、大学時代に黒人のルームメートがいたから、と。様々な理由をつけて自分を見つめ直すことから逃げているのではないですか?」。白人であることが米国社会においてどのような意味を持つのか、「白人の特権」について根本から考え直さない限り、レイシズムの問題は一向に解決しないと直言する。白人の議員にとっては、なかなかに居心地の悪い講演である。

タイトルにあるWhite Fragility (白人の心の脆さ)とは、白人たちが人種問題に向き合えないその脆さを表現する言葉として、2011年に著者が作り出した造語である。日頃、自らの人種(白人性)について考えることが苦手な白人は、人種をめぐる小さなストレスを受けただけで耐えられなくなる。例えば、ベージュのクレヨンを「肌色」と呼ぶのは不適切ではないか、といった些細な指摘にも、白人は動揺する。そして、白人は様々な自己防衛的な行動―早口で抗弁する、沈黙する、話題から逃げる、泣くなど―をとり、人種ヒエラルキーの優位にたつ白人として心の平穏さを取り戻そうとする。その人種問題への向き合い難さを、この言葉は表している(第Ⅺ章「白人女性の涙」は典型)。


出版社からのコメント(朝日新聞社じんぶん堂記事より)

本書は米国における人種上のマジョリティ、つまりは白人に向けて書かれている。その内容は、社会的な「特権」をもつ白人は多かれ少なかれレイシズム(人種差別主義)をすでに内面化しており、自覚し続ける以外にそれを緩和できるすべはない、という厳しいものだ。
ただ、大きく言って男女間で、本書の受け止め方は異なるかもしれない。本書の指摘の大半は、男女間の権力関係においても当てはまるからだ。では、日本社会のマジョリティである日本人が本書を読むことは何を意味するのか。また日本人の男女間にはいかなる読みの相違が生じうるのか。そして日本人は白人との人種的関係性を、どう整理して理解するのか。
今回、装丁にはいささか挑発的に「憂いを湛えた白人女性」をあしらった。これは一義的には白人女性が、自分の涙をレイシズムの隠れ蓑として利用する本文の事例を表したものだが、写真の女性はそうした自らのありように疑問を抱き、内省しているさまにも見える。日本の女性読者等は、この表情をどう受け止めるだろう。
一方で、このか弱げな表情に、男性読者はどういった眼差しを向けるのだろう。セクシズム(性差別主義)にも通じるある危うさがあるとして、その指摘を男性たちは「否認」するだろうか。とすれば、そうした「心の脆さ」もまた、本書の主題の一つであると言えるかもしれない。


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はしがき

序 ここからはたどり着けない
Ⅰ レイシズムについて白人と話すのはなぜ困難か
Ⅱ レイシズムと白人至上主義
Ⅲ 公民権運動後のレイシズム
Ⅳ 人種は白人の生活をどう形作ったか
Ⅴ 善/悪の二項対立
Ⅵ 反黒人性
Ⅶ 白人にとって何が人種をめぐる引き金となるか
Ⅷ 白人の心の脆さという結論
Ⅸ 白人の心の脆さによる行動
Ⅹ 白人の心の脆さと関与のルール
XI 白人女性の涙
XII ここからどうすればいいのか

寄稿 カイザー・ソゼ、ビヨンセ、証人保護プログラム[マイケル・E・ダイソン]
監訳者解説[貴堂嘉之]

 註
 参考文献

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