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スピルオーバー
本体3,800円+税
ISBN 9784750351544
判型・ページ数 A5・512ページ
出版年月日 2021/03/31
フォーマット 価格
単行本 3,800円+税
電子書籍 3,040円+税

スピルオーバー (単行本)

ウイルスはなぜ動物からヒトへ飛び移るのか

異種間伝播により爆発的に広がった疫病の実態とそれに挑戦する人々の苦闘を、徹底した現地取材を通して辿る世界的ベストセラー。

生態系の破壊が、ウイルスを呼ぶ。

ウイルスたちはなぜ、いつ、どこで、いかに種を超え人間へと飛び移り、大惨事をもたらしてきたのか。異種間伝播(スピルオーバー)を通じて爆発的に広がった疫病の実態とそれに挑戦する人々の苦闘を、徹底した現地取材を通して辿る世界的ベストセラー。

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「私たちは多くの種の動植物が生息する熱帯林やその他の原始景観に侵入している。私たちは木を切り倒し、動物を殺し、あるいは檻に入れて市場に送っている。それらの動物の体内には、数多くの未知のウイルスがいる。私たちは生態系を破壊し、ウイルスを自然宿主から解き放っている。放たれたウイルスには新しい宿主が必要だ。時に私たちが、その新しい宿主となる。」

(補章「私たちがその流行をもたらした――新型コロナ」より)

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エイズ、マラリア、SARS、エボラ……。いずれも感染は、野生動物と人間の接触によって起こっている。ウイルスの宿主は、野生動物の中にいる。人間がこれらの動物を狩ったり、伐採や採掘で生息地を奪ったりして生態系を乱すとき、私たちは動物に代わる新たな宿主となりうる。人間に飛び移り、複製し増殖できれば、ウイルスは世界で最も繁栄する動物の内部に居場所を見つけたことになる。

スピルオーバーとは、ある病原体が種から種へと飛び移ることを指している。それは予想を超える突発的な集団発生、すなわちアウトブレイクをもたらす可能性がある。世界各地の疫病の震源地や研究の最前線に足を運び、ウイルスがもたらす現実とそれに挑戦する人々の姿を描く果敢な試み。異種間伝播する病原体が近い日に〈次なるパンデミック〉を引き起こすことを予言した警世の書。

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【「訳者あとがき」(甘糟智子)より一部抜粋】

本書は自然科学系のルポルタージュを数多く手掛ける米国人作家・ジャーナリストのデビッド・クアメン氏が、米誌『ナショナルジオグラフィック』の企画で行った「人獣共通感染症」をテーマとする数年がかりの取材をまとめ、2012年に発表したSpillover: Animal Infections and the Next Human Pandemicの完訳版である。米国では出版時にベストセラーとなり、米科学著述者協会(NASW)の科学ジャーナリズム賞(Science in Society Journalism Award)や英国王立生物学会の図書賞(Science in Society Journalism Awards、一般生物学部門)を受賞した。ここへ来て、2019年末以降のいわゆる「新型」コロナウイルスの流行によって原書が再び世界の注目を集め、今回、日本語版登場の運びとなった。

「新型」コロナウイルス、つまりSARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)の出現によって原書がとりわけ注目された理由の一つは、次にパンデミックを起こし得る病原体の候補としてコロナウイルスを挙げていたことだ。中には「予言」と評した米メディアもあった。だが、そうした反応に対し、当のクアメン氏は自分に先見の明があったわけではなく「10年前、『スピルオーバー』の取材をしていたときに、第一線の科学者たちの話を注意深く聞いていただけだ」と答えている。本書でも触れられているように、一般的な風邪を引き起こすウイルスの中にはコロナウイルス科のいくつかが含まれている。だが、人間に重篤な症状をもたらすことが確認されたコロナウイルスは、2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)のSARSコロナウイルス(SARS-CoV)、2012年に確認されて以来今も世界でくすぶっている中東呼吸器症候群(MERS)のMERSウイルス(MERS-CoV)に続き、SARS-CoV-2が三番目である。

クアメン氏のブログによると、同氏がSARSコロナウイルス2の出現を初めて意識したのは、中国・武漢市での集団感染確認から年が明けた2020年1月13日、米国科学者連盟(FAS)が配信する感染症速報メーリングシステム「ProMed」に掲載された世界保健機関(WHO)の報告だった。武漢市の女性が渡航先のタイで特異な肺炎を発症し、隔離治療を受けた上で回復途上にあるという比較的小さな報告だったが、「新型コロナウイルス」という記述がクアメン氏の目に留まった。その後も関連報告は続き、クアメン氏は1月28日、『ニューヨーク・タイムズ』にこのウイルスについて初めての寄稿をしている(本書ではこの寄稿を「補章」として加えた)。このときはまだウイルスの名前も「nCoV-2019」という暫定名称だった。

しばらくして中国以外にもイタリア、イラン、米国と、集団感染の報告は大陸をまたいで広がっていき、その後のパンデミックによる医療的・社会的・経済的打撃の甚大さはもはや周知の通りだ。日本でも2020年2月初旬、横浜に帰港したクルーズ船、ダイヤモンド・プリンス船内での集団感染確認と検疫を皮切りに、一年以上経ちこれを書いているまさに今も首都圏は新たな緊急事態宣言の最中だ。クアメン氏の言葉を借りれば「世界の誰もが、あの時、自分はこうしていたというエピソードを持つ」大きな事態となっており、訳者自身も歴史の中に自分が生きている瞬間や時代を位置付ける視点を改めて実感している。


【書評情報・関連記事】
「人獣共通感染症」という視角 ――『スピルオーバー~ウイルスはなぜ動物からヒトへ飛び移るのか』(じんぶん堂)

Ⅰ 青白い馬――ヘンドラ
Ⅱ 一三頭のゴリラ――エボラ
Ⅲ あらゆるものはどこからかやって来る――マラリア
Ⅳ ネズミ農場での夕食――SARS
Ⅴ シカ、オウム、隣の少年――Q熱、オウム病、ライム病
Ⅵ 拡散するウイルス――ヘルペスB
Ⅶ 天上の宿主――ニパ、マールブルグ
Ⅷ チンパンジーと川――HIV
Ⅸ 運命は定まっていない
補章 私たちがその流行をもたらした――新型コロナ

 訳者あとがき
 参考文献
 註
 人名索引
 事項索引

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