授業づくりで変える高校の教室1 社会

まえがき


 社会を学ぶというと、概ね暗記科目として多くの高校生に嫌われています。「なんでそんなことまで知っているの!」と異星人をみるように教師を眺めている高校生も多いわけです。これは決して尊敬しているのではなく、意味のないことに精力を注いできた奇妙な人間と映っているわけです。
 しかし、社会に関わる内容は、本当は高校生の今の暮らしにも、将来の生活にも深く関わっています。確かにそうなのですが、そうはいっても高校生は授業に乗ってきてはくれません。ところが、本書に集められた実践は、完璧ということではありませんが、生徒たちの社会についての疑問に応え、社会や生活についてより深く考える世界へと誘っています。驚くほどの集中と感動を引き起こしています。そんな教室が日本の高校にあるのです。それが何によって可能となったのか、ともに考え合っていきたいと思います。

 高校は本当に多様化されました。「個性」に応じて配分され入学してくるはずなのですが、実際には全般的に学習意欲が低く、授業の成立さえ困難な状況があります。それは、課題山積校だけではありません。本書は、この恒常的な授業の不成立、教育することの難しさにどのように挑むのかを優れた実践記録を通じて明らかにしようとしました。多くの困難な中で生徒たちを引きつけ、生徒と教師の関係を築き直している実践を集めることで、そこに希望を見いだそうとする試みです。若い教師だけでなく、従来の授業を見直してより一層の手応えを教育活動に創り出していきたいと願うベテランの先生たちにも見ていただきたいと思います。
 今、生徒の学習意欲の衰退は極限に達していると言われ、物事を認識する力も弱まっていると言われております。しかしながら、これまでの高校教育についての固定観念を打ち破り、現代に相応しい内容や学び方へと変えるならば、学びがいのある授業を創り出すことが可能なことを本書の実践記録は教えてくれています。
 その基本方向は、生徒の学びへの期待を掘り起こし、偏差値輪切り的世界を越えて、新たな文化世界に誘う方向です。教育が困難だからといって教育水準を下げたりすることではなく、教えるべき内容を問い直し、新たな活動的な学びを組織していくことです。本書を読み進めていくとそのことがはっきりしてきますし、そのアプローチの多様さに気づかされることと思います。

 ところで、社会を主題的に取りあげる教科は、高校の場合、地歴科と公民科、いわゆる社会科だと思われがちですが、そればかりではありません。どんな教科もどこかに社会との接点を持っていますし、家庭科や保健体育科、さらに「総合的な学習の時間」においても社会を取り立てて学びます。だから、社会科の各科目の授業ばかりでなく、家庭科や総合学習として取り組まれた実践記録も掲載しています。本書が「社会科」ではなく、「社会」となっているのはそのためです。その意味でいろいろな教科の先生たちにも読んでいただきたいと思います。
 本書を契機に高校の教育実践が広く捉え返され、21世紀を担う思慮深い市民が育っていくことを期待したいと思います。

子安 潤

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