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本体4,800円+税
ISBN 9784750334707
判型・ページ数 4-6・456ページ
出版年月日 2011/10/25
フォーマット 価格
単行本 4,800円+税
電子書籍 3,840円+税

新版 エジプト近現代史 (単行本)

ムハンマド・アリー朝成立からムバーラク政権崩壊まで

湾岸戦争、中東和平問題、国際テロ対策と様々な局面で中東諸国間また中東・欧米間を仲介する「中東の大国」エジプト。国家近代化と民族自決を目指した「帝国への挑戦」から「アラブの春」と呼ばれる中東政変によるムバーラク政権の崩壊までを辿る。

 

書評・関連記事紹介

【書評紹介】

中東を理解する為の書籍案内( 「中東研究」No.492/評:山内昌之 氏)

※この書評は2006年に刊行した旧版に対して述べられたものです。

 エジプトは中東の「大国」にしてアラブの「大国」である。現代につながる悠久の歴史、近代化を最初に試みたイスラーム国家、「アラブの盟主」、いずれをとってもエジプトは、アジアとアフリ力にまたがる国家としての貫禄を誇っている。ジエトロで貿易振興のために中東各地で活躍してきた山口氏の新著は、近代エジプトの通史としてよくまとまっており、ユニークな人物や事件を巧みな叙述によって読者に近づける努力にも成功した。何よりも氏の読みやすい日本語は、生真面目な分析を説得力あるものにしている。

 副題が示すように、山口氏はムハンマド・アリー王朝の君主による内政や外交を政治史と経済史の結合のなかで論じようとした。ムハンマドアリ一族の描写などは、初めてエジプト史を勉強する人にとって、ナーセル革命以前のエジプトをおおまかに理解する手がかりにもなるだろう。たとえば、一九五七年の革命で王位を追われたファルークとその周辺の腐敗ぶりを読むと、アラブが何故にパレスチナ戦争に敗北しイスラエルの建国を認めざるをえなかったのかをよく理解できるというものだ。側近がヤミ市場で調達した兵器は欠陥品や老朽品が多く戦場で破裂する有様であった。パレスチナ戦線で将兵が戦っているとき、宮廷関係者がリベートで巨万の富を築く一方、ファルーク国王は国民的人気の高かった王妃ファリーダを離婚する。やがて、ユダヤ系の女性と再婚しようとして果たせず、フィアンセのいる十六歳の少女と結婚した。これでは、国民の敬愛を得られないだろうと呆れながら山口氏は語るのだ。

 この王朝には肥満体質の遺伝がつきまとった。ファルークは毎日昼すぎに起床すると、ゆで卵三〇個にはじまり、ロブスター、ビーフステーキ、ラム・チョップ、チキンや鳩の丸焼きと続く「朝食」をとり、午後の遅くには朝食の倍の「昼食」を運ばせた。寝る前の「夜食」でさえ、キャビアに始まり、フォアグラ、アイスクリーム、二リットルのフルーツジュースと続いたというのである。まだ三十代のことであった。もともとは眉目秀麗だったスリムな紳士は、見るも無残な「腐ったメロン」とも「肉風船」ともあだ名される肥満体に変り果てた。そのうえ、ギャンブル好きのファルークは、夜ごとに愛人や取り巻きを連れてナイトクラブやカジノに入り浸ったというから驚きである。「即位時には、エジプト民族主義の輝ける星であり、青年のアイドルだったファルークは、いまや恥辱と腐敗・汚職の象徴と化した」という指摘は、国民の怒りと革命の原因を手短に説明しているといえよう。

 こうした逸話を随所に散りばめながらも品位を保って、エジプトの近現代史をわかりやすく説いている。良書として多数の人びとに読まれることを期待しておきたい。

 はじめに

1 混迷と停滞――一六世紀から一八世紀までのエジプト

2 近代への覚醒――ムハンマド・アリー朝の成立
  西洋の衝撃
  ムハンマド・アリーの登場
  シタデルの惨劇

3 帝国への道――強兵策と領土拡大
  近代的常備軍の誕生
  ギリシャ戦役
  第一次シリア戦役
  栄光

4 挫折――英国の壁
  火種:インド・ルートと繊維摩擦
  喪失:第二次シリア戦役

5 行財政改革――近代的中央集権国家の誕生
  財政基盤の確立
  行政機構の整備

6 近代化と殖産興業――経済的自立の模索
  先進技術の移入と教育振興
  農業振興とエジプト綿
  工業化と貿易振興

7 ムハンマド・アリーの時代――その光と翳
  通商産業政策の蹉跌
  エル・キビール

8 反動と転機――アッバースとサイード
  暗雲
  反動
  薄日
  転機:スエズ運河
  転落の予兆

9 脱亜入欧――イスマーイールの挑戦
  総督から副王へ
  不平等条約改正交渉
  領土拡張と奴隷交易
  欧化政策
  頂点:スエズ運河開通式典

10 転落――植民地化への道
  バブル崩壊
  財政破綻
  揺らぐ政権基盤
  ヨーロッパ内閣
  廃位
  イスマーイールの功罪
  エジプトと日本:近代化の明暗

11 最初の革命――そしてその挫折
(一)思想家 アフガーニー
  点火
  後継者
(二)革命家 アフマド・オラービー
  革命への道
  民族主義政権の成立
  挫折:テル・エル・ケビール
(三)革命家 マフディー
  「救世主」の登場
  ハルツームの陥落
  後継者:アブドゥッラーヒ
  挫折:オムドゥルマーン
(四)実務家 クローマー卿
  英国統治の始まり
  戦後復興
  ディンシャワーイ事件

12 第二の革命――独立回復への長い道
(一)不世出の革命家 ムスタファ・カーメル
  言論による革命
  国民党の結成
(二)反骨の副王 アッバース・ヒルミー二世
  反発から協調へ
  協調から決定的対立へ
(三)独立の父 サアド・ザグルール
  第一次世界大戦とエジプト
  民族指導者への道
  一九一九年革命
  独立後の闘争

13 落日に向かう王朝――ファルークの時代
(一)明るい滑り出し
  正式独立の達成
  民族資本の台頭
(二)暗転
  二月四日事件
  大戦間のエジプト:長期不況と学園紛争
  新しい政治勢力の台頭
(三)第二の衝撃 パレスチナ戦争
  ナハスとシドキー
  パレスチナ戦争
  ファルークの変貌:略奪婚と巨食

14 エジプト革命――王朝の終焉
  終わりの始まり:カイロ暴動
  一九五二年七月二三日

15 ナセルの時代
  共和制移行
  運河国有化
  獲得
  アラブ民族主義:絶頂から転落へ
  アラブ社会主義:経済失政
  破綻:第三次中東戦争

16 サダトの時代

17 ムバーラクの時代とこれからのエジプト
(一)一九八〇年代:多難なスタート
(二)一九九〇年代:転機となった湾岸戦争
  外交の成功と経済の再建
  イスラーム主義勢力との対峙
(三)二〇〇〇年代:政権延命・継承への試み
  権威主義的体制
  顕在化する行き詰まり
  二〇〇五年の「民主化」とその反動
(四)二〇一一年:ムバーラク退陣とこれからのエジプト

 あとがき

 関連年表
 主要参考文献・資料
 掲載写真・図版出所

 索引(事項/人名/地名)

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